最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるわけでもない。唯一生き残るのは変化できる者である。

 少し年齢の高い方であれば、ポラロイドカメラをご存知の方も多いと思います。私も40年くらい前に所属していた研究開発部門での電子回路実験の際、回路設計の成否を議論し、判断するために回路動作の波形写真を撮るのですが、非常に重宝したのがポラロイドカメラでした。なにしろ撮影後、数十秒で現像写真ができるので、回路設計の成否をすぐに判断でき、対策が打てる訳ですから開発を効率的に進める上でも大いに役に立ちました。
 ポラロイド社は圧倒的な世界シェアを誇り、優れた製品は他の追随を許さない強さがありましたが、ディジタル・カメラなどに押され、2001年 米連邦破産法の適用を申請(その後 復活し、今年の2月までインスタントカメラの製造販売は継続していました)。世界中でもてはやされ、王者であったがゆえに過信し、時代の変化を察知することを鈍らせ、新技術・新製品の前に、あっという間に滅び去った例ではないかと想像します。  
 対照的に写真フィルムを主力事業としていた富士フィルムは、他社に先駆けてディジタル・カメラを発売し、事業転換に成功しました。同社はさらに進化し、既に写真・映像はもはや主力事業ではなく、医療、化粧品、製薬、高機能材料などの事業を大きく伸ばしています。ダーウィンの後者の言葉が当てはまるでしょう。

 当社も設立から5年半を経過し、初年度と比較して社員数も売上高も10倍以上に成長しました。日立グループ各社様からのお引立てとご指導の中で多くの社員が育てられ、会社も成長しました。事業内容はネットワーク・サーバシステムの設計構築に留まらず、ソフトウェアやセキュリティ技術開発、ハードウェア設計など広範囲に手掛けるまでになりました。しかも最先端の技術分野での実績を積むことにより、レベルや質も向上し、エンジニアリング会社を名乗れるまでになりました。
 経済産業省様をはじめ、日立グループ以外の大手優良企業様との取引も拡大しております。さらに我々は世界に目を向け、事業分野の拡大だけでなく、技術力と人間力を磨き、構想力と実行力をたくましくして、質の面でも、志の面でも一段と進化していかなければなりません。
 このように将来を展望できるまでになったのは自然となった訳でもなく、誰かが与えてくれた訳でもありません。社員の皆さんが自ら成長したいと願い、努力し、会社も生存を賭けて戦略を練り、施策を打ち、その努力の成果が今日の姿になった訳です。本当に小さな会社からスタートし、天才がいた訳でもありませんが、必死で社員も会社も力量を付けよう、そして時代の要請に応えられる会社になろうと努力し続けた結果が今日の姿であり、意志をもって行動してきた結果です。ダーウィンの適者生存の言葉のように。うぬぼれてはいけませんが、自信と誇りを持ちましょう。
 今年4月の年度初めの総会でも皆さんに申し上げました。『ニーズに的確に応え続けるなら会社は潰れることはありません』と。我々には“謙虚で誠意ある行動と高い技術力”でお客様満足に応えるのだという『IT働楽研究所魂』と『社員同士が協力し合う良い企業風土』『仲間のために知恵を出し、労を惜しまない気風』があります。当社の宝であり、この魂を抱いて全社一丸となって厳しい難局に立ち向いたいと思います。

 とはいえ、米欧の金融システム崩壊に始まり、日本も含め、株価の下落、大幅な生産減退から、業績不振・倒産、リストラ・解雇と負の連鎖は留まるところを知らず、そのスピードは誰も経験したことがない未曾有の危機です。轟音鳴り響く地震と荒れ狂う巨大な津波が襲い掛かってくるように。
 しかし、ひるんではいられません。私は全身全霊をもって進むべき方向性を示します。皆さんも全知全能を傾け、ベクトルを合わせるための議論百出は大歓迎、そして決まったことはスピード感を持って一致団結した行動をお願いします。このような時には、“考えながら走り、走りながら考える”のがベストです。走る間に状況も変化しますので、変化を察知し、大波を避けるように軌道修正も必要です。
 つい先日、数年前のITバブル崩壊時の難局を乗り越えて顧客筋を大幅に拡充させ業績を上げた取引先の取締役のアドバイスの中に、「社員を総動員して客回りをする、友人・同窓・家族などあらゆる人脈を活かして、お客を掴むしかない。開発がすべてなくなる訳ではない、良いところを探り当てて、元気を出してやれば結果はついてくる」という言葉がありました。実体験からくる言葉には重みがありました。人は自分の能力や経験を越えた大きな難題に直面した時にはややもすると“難しい、できない”という声が出がちですが、逆に「どうしたらできるか、やるためには何をしないといけないか」というふうな発想に立てば道は開けます。
 本社の人は時間があればお客様のところを回る、戴いた情報をもとに次の行動を考えるなど、受注に対して執念を持って行動をして欲しい。ライン部門の方も新しいビジネスを興すくらいの気持ちで、創意工夫をこらし、アイディアを出して戴くようにお願いします。大事なことは全体としての利益は何か、重要なことは何かを第一義的に考え、行動して戴くことです。全社一丸となってこの難局を乗り切り、新しい境地を確立したいものです。ご協力を切にお願いします。

2008年12月