庭師はお茶を飲み始めたら仕事開始! えっ、なぜ!? ― 仕事は段取りが重要、まず仕事の仕方を設計せよ!! ―

 子供の頃に耳にした兄たちの会話 “庭師は仕事をする前にゆっくりとお茶を飲むらしい? それでも一日分の日当を貰うらしい?!・・・  なぜすぐに脚立に登ってチョキチョキやらないのだろうか?” 疲れてもいないだろうに、来てすぐになぜお茶なんか飲んでいるんだろう! と思っていました。  その意味が最近、よく解りました。私も週末はスマートにいうとガーデニングに没頭することが多く、職人さんを見習って庭木の剪定もします。立派な庭木や盆栽は『時間と空間の缶詰』とも形容することができ、主幹のたくましさと全体がかもし出す曲線美は、空間的な広がりと威厳を放ちます。庭木の剪定のポイントはいかに周囲との調和を保ちながらも、その木の個性や特徴を活かしつつ、役割missionを与え 存在感presenceを引き立たせることです。庭木と庭全体の今の姿と未来の完成形をイメージして、どこを刈り、どの枝をどう伸ばしていくかのセンス=構想力が最も重要です。そして その木の性質や特徴、すなわち成長が早いのか遅いのか、枝張りはどうか、日当たりを好むのか、日陰を好むのか、土壌は酸性か、アルカリ性か 等々の植物に関する基本知識を持っていないと木を駄目にしてしまいます。また例えば バラは花が終わった後どこで切り取るのが正しいか、次の花をきれいに咲かせるには古い花の下10センチくらいのところの三つ葉から五つ葉に変わったところの幹を切り取る、というような専門知識を持つ必要があります。

 庭師の方はお茶を飲みながら、構想を練り、どのように作業を進めるかを考えていた訳です。構想もなしにいきなり枝をばさばさ切り落とされて庭木を台無しにされてはたまったものではありません。しっかり構想を練り、仕事の進め方を考える段取りは非常に重要な仕事の一部です。
 我々のITシステム開d発はそれより要求条件がはるかに高度で、考慮すべき条件が多く、開発手法も日々進化するというように非常に難易度が高い仕事です。したがっていきなり仕様書を書き出したり、コーディングやシステム定義コンフィグ作成を始めるのは禁止的です。まず、要求条件をしっかり整理し、実現方式の選択やアーキテクチャを考案し、機能・性能、信頼性、操作性・運用性、移行性、実現コストや開発期間、体制など様々な角度から検討する必要があります。そしてそれらを要件定義書などの形にドキュメント化し、プロジェクト計画書を作成して、プロジェクトを本格的にスタートさせる訳です。
 しっかりとした段取り、準備なくしてプロジェクトは進められません。私が『仕事の仕方を設計せよ!』と言っているのは、その前段階の整理と捉えて戴いて結構です。与えられたミッション、与えられた業務を正しく推進するために、まず仕事の全貌を把握し、問題点や潜むリスクを押さえ、どんな段取りをし、どのように仕事を展開するかを考えることを、『仕事の仕方を設計せよ!』と比喩的に言っている訳です。
 どんな仕事も“仕事の仕方を設計する”ところからスタートすれば、抽象的で大きなテーマでも徐々に具体化できるものです。一度で明確化できない場合は、何度か繰り返したり、上長・有識者のアドバイスを受ければプロジェクトの全貌と仕事の進め方が明確になり、自信をもって仕事が進められるようになります。
 我が働楽グループの技術者は基本設計レベル以降の仕事は出来ても、プロジェクトの突破口を自ら切り開く力がまだ弱いと思います。これでは『闘う技術者、戦える技術者集団』にはなれませんので、本当の意味で上流工程の仕事ができる技術者へ成長して戴きたいと願っています。
 真に『闘う技術者、戦える技術者集団』になるためには、前述のような姿勢で業務に取り組み、より複雑で困難なプロジェクトに挑戦して経験を沢山積む必要があります。若い時の苦労は後年、間違いなく活きてきますので、労を惜しまずに何事に対しても積極的にチャレンジして下さい。立派なプロジェクト・リーダやマネージャになるためにはセンスと構想力が必要ですが、これらも努力することによって備わってくるものです。自分には才能がない、能力が備わっていないという人はまだ努力が足りないと思った方が良いと思います。
 そして働楽グループの将来も皆さんのセンスと構想力を持ち寄って議論し、全員参加でより良い会社に創り上げて参りましょう。

2012年10月