人が幸せになる経営

 この1年、メルマガ巻頭言を通じて皆さんにお話したテーマの根底にある信条は、『活力と連帯感に満ちた良い会社を実現したい』ということでした。“活力”と“連帯感”、この2つの言葉が『活力と連帯感』とセットで用いられるときに、相互連関作用により補完し合い共鳴し合い、これがさらに広く伝播していくような魅力ある言葉となっているように思っています。
 『活力と連帯感に満ちた良い会社を実現する』というのは、組織形態の有り様としては理想的な姿ではないでしょうか。そしてそのゴールは『人が幸せになる経営』です。経営活動を通じて追及する経営的価値、すなわち当社の経営目標は『人が幸せになる経営』です。
 ここで『人』とは、当社従業員が第一の主役であることはいうまでもありません。一人ひとりが幸福と感じる要素は多種・多様であり、また優先度や質・レベルが個々人によって異なることから、一様な定義と価値判断が困難なテーマであることを認識する必要があります。一方、経営的側面からは、以下の4点を重要視した企業風土作りと施策を進める必要があると思っています。

 

 安心感:自分はこのままここで働いていいんだ、という感覚。会社の状況を社員も良く理解し、会社も社員それぞれの業務を良く見ていて、相互信頼がある状態から生れる。
 熱中感:会社の存在意義や与えられた仕事の意義などを納得して、一定の裁量の中で自分の仕事に文字通り夢中になって取組めている状態。
 成長感:昨日よりは今日、今日よりは明日と自分がステップアップしていると実感できること。ここにいると成長できると思えること。
 重要感:周囲からの期待を感じながら、“自分は必要とされているんだ”という自負を持って仕事に取組めること。プロとしての誇りを持ち続けることができているということ。

 

 人を大事にする経営姿勢を持って『人が幸せになる経営』を目指しますが、皆さん全員との共同作業であることも理解して下さい。伊藤忠商事の丹羽元会長の言われる『くれない族になるな!』(会社が○○をしてくれない、上長が△△をしてくれないと与えられることばかりを望むな)との戒めを持って下さい。役職者の方々にはチーム運営をしっかりとお願いします。昔むかしのモーセの時代には5人の長、10人の長、百人の長がそれぞれの組織運営を任されたように、当社においてはサブリーダ、チームリーダ、ユニットリーダ、グループリーダの方は組織のパワーが最大限に発揮されるようにリードして戴きたいと思います。前向き、建設的な議論と行動が、『活力と連帯感』の増進に繋がります。
 一人ひとりは、それぞれ互いの思考様式や価値観、作法などが異なり、意見の違いがあることを認めた上で議論し、合意形成を行ってベクトルを合わせ、全体目標の実現に向かって努力をお願いします。
 自己主張ばかりをして欲しくないという逸話を一つ、“黄河は北に流れている、いや南だ、と大会社の部長達が細かい議論を延々とやっている。黄河は西から東の黄海に注いでいるに決まっている”と評した管理部門の偉い?人がいました。黄河はチベット高原に源を発し、確かに中流域の利通区というところで約700Km北上し、朔州市で800Km近く南下し、東の黄海に注いでいます。この逸話の議論は黄河をどの局面で捕らえるかで、どれもが正しかったり、どれも正しくなかったりしますが、状況を正しく捉えないで自説だけを振りかざしたり、突っ張ったりしていては、時間を浪費するだけで有効な結論には至らないばかりか、後味の悪いものになってしまいます。
 建設的な合意点を見出すためには、多面的な見方や意見も受容する心を持つと同時に、議論の方向が組織目標に対して妥当か、会社目標に合致しているか、顧客視点で見て正しい選択かという、自分および自分達だけの価値観を越えた上位概念で判断する習慣を持って欲しいと思います。
 間違っても「人を幸せにする経営」をするなどと傲慢なことがいえる訳はなく、経営層としては『人が幸せになる経営』を実現するための環境作り、企業風土作りを推進します。全従業員の皆さんも一緒に魂を入れることを実践していきましょう。
 また、対象とすべき『人』としてのもう一方の主役は、パートナ会社の方々、お客様、そして社会と言う不特定の多くの人々が対象であることを忘れてはなりません。お客様、社会の人々を幸せにする製品やサービスをご提供することが企業経営の目的であることを念頭におかなければなりません。お客様や社会の人々を幸せにする製品やサービスをご提供することに対してプロであり、一流であり、そこに使命感と誇りを持って全力で取組む集団であり続けましょう。  そこからまた充実感や達成感を味わい、熱中感、成長感、重要感が湧いてくるのだと思います。

 
2009年5月