ブレークスルー

 今年に入って2つの大学(東京工科大学、玉川大学)で、そして昨年も大学、専門学校などに招かれて講演をしてきました。ネットワーク技術論に加え、就職活動を間近に控えた学生には『企業の求める人物像』という話をしています。具体的には、テクニカル・スキルは基本中の基本であり、ヒューマン・スキルはもっと重要、そして混沌とした時代を生き抜くには“ブレークスルー・スキル:現状打破/問題解決能力”がさらに重要になる、というところから話を解きほぐしています。

 ブレークスルーとは、『課題を解決する能力であり、現状を打破し、障害を突破する能力』のことです。ブレークスルーの最も根源的な能力は、『知恵と意思の力』です。すなわち、知恵を駆使して、目的を達成しようとする強い使命感、成功するまで諦めないという執念を持って、逃げないで臨むことです。「なんとしても」、「絶対に」という思いを強く持つことが重要です。
 それでは知恵という言葉をもう少し掘り下げてみましょう。知恵とは「論理的な思考能力」と「知識と経験に基づく創造力」から来るものであり、『問題発見能力』と『問題解決能力』を生み出す源泉です。
 分かり易く言いますと、沢山経験する/とことん経験する、貪欲に知識を吸収する、そして諦めずに考え抜くことです。過去の延長線上で考えることも重要ですが、不連続なパターンをどれだけ数多くシミュレーションできるかが問題解決の突破口に繋がります。 3人寄れば文殊の知恵という言葉もあります。多くの人と良く議論すると、新しい解が生れます。

 日本は、コピー(模倣)、コントロール(管理)、チェイス(後追い)という3Cで発展してきたと言われますが、90年代に入ってそのモデルがなくなってきました。長い間、“欧米に追い付け・追い越せ”が国家目標であり、企業の目標でもありましたので、「How=如何にして作るか」の腕は上げても、「What=何を創るか」については思考停止状態と言いますか、育っていなかったと言うことでしょう。
 私自身のことを振り返ってみても、当時の電電公社の長期計画に従い、“日本の電話交換網をどのようにして全自動化するか、いかにして全電子化を実現するか、そしてオンライン時代の本格化に向けてデータ通信網をいかに作り上げるか”という命題に、技術開発の面で少しは貢献したのではないかと思っています。後年は、メインフレーム系の製品開発においても常にIBMという巨人をウォッチし、IBMの新製品のあとを追うようにして自社製品を開発し、インタネットの黎明期にはCisco、3Com等々米国製品をモデルに製品開発を行ってきました。
 日立のみならず、他のトップベンダも一様にそうでした。いわゆる“後出しじゃんけん”のようなものでしたが、それでも追い付くのが精一杯で、ついぞ米国に先んじた技術を提示できませんでした。日本メーカは、国内マーケットの中でどれだけのシェアを取るか、奪い合うかに明け暮れ、世界を視野に入れたビジネス戦略を描くというのは少なかったし、残念ながらあまり成功していません。

 90年代に入って模倣すべきモデルがなくなった日本はやがて、ITバブル崩壊、金融危機という2つの修羅場をくぐることになり、その痛手もようやく癒えて、自力と自信を取り戻しつつあったさなかに、今回の世界中を覆う大不況の嵐に飲み込まれてしまった訳です。
 どの国も悪戦苦闘、幾つかの処方箋を試しつつ、将来の展望を切り開こうと模索しているところです。隆盛を誇った大企業もうろたえるようにして人員削減、開発中止と取引縮小へ一目散です。まるで羅針盤と舵を失った船が荒れ狂う大海原で翻弄されるように。
 当社もいよいよ自力で、独立独歩の道を歩んで行かなければなりません。艱難は人を逞しくするといいますが、これは困難に立ち向う術(すべ)=知恵と、打ち勝つのだという意思の力を持って行動する人のみが勝ち取れる果実なのです。 いよいよ我々のブレークスルー能力が問われるところです。この状況を我々に与えられた試練と捉え、覚悟を決めて前進しましょう。

 求めよ!さらば与えられん、 叩けよ!さらば開かれん :扉が開かれるまで諦めずにチャレンジしましょう。

 前例主義にとらわれるな! :現状を打破するためには、これまでの発想、やり方を転換することが必要です。(私はこの世の中に完成されたものは一つもない、という考え方をしています)。改善・改革の意識を常に持って下さい。

 何故、どうして、と自分に問い掛けて下さい :問題意識を持つところから、現状打破・問題解決の心が芽生えてきます。

 “このようにありたい”という理想形を描いて下さい :理想というゴールが見出せれば、あとは如何にすればゴールに辿り着けるかを考えればよく、気が楽になります。

 そして『知恵と意思の力』を駆使して、成功するまで諦めないという執念を持って、目標達成努力をすることしか、我々に未来はありません。一人ひとりがブレークスルー能力を膨らませて戴いて、会社トータルの現状突破/現状打破能力を最大化し、この難局を乗り切りたいと思います。
 常に、『活力と連帯感』みなぎる“IT働楽研究所”でありたいと願っています。

2009年2月